750馬力。車重はわずか約1,247kg。そして、快適性や電子制御をほとんど捨て去ったレーシングカーのようなキャラクター。
2007年型Saleen S7 Twin Turboは、現代のスーパーカーという言葉から想像する「速くて快適なクルマ」とはまったく違う存在だ。
アメリカ・カリフォルニア州アーバインは、フェラーリの故郷であるモデナではない。スティーブ・サリーンもエンツォ・フェラーリではない。それでも、マスタングのレーシングドライバーから自動車メーカーへと転身したサリーンは、220mph(約354km/h)を超える最高速を狙う、完全にアメリカ生まれのスーパーカーを作り上げた。
その心臓部に搭載されるのは、7.0LのOHV V8。しかもエンジンは車体中央に搭載される。
S7そのものがすでに驚異的な存在だったが、Twin Turboはそこからさらに一段上を目指した。ターゲットはフェラーリではなく、当時スーパーカーの頂点に君臨していたブガッティ・ヴェイロンだ。
750馬力をわずか1.2トンの車体に
S7 Twin Turboの公称出力は750hp。最大トルクは700lb-ft(約949Nm)に達する。
自然吸気仕様として2003年に登場したS7と比較すると、最高出力は36%、最大トルクは33%も増加している。
しかも車重は約2,750lb(約1,247kg)。
パワーウェイトレシオは3.6lb/hp。数字だけを見れば、当時1,001hpを誇ったブガッティ・ヴェイロンに匹敵する。
実際に走らせてみると、その数字が単なるカタログ上のものではないことが分かる。
4速、約50mph(約80km/h)で交通の流れに合わせて走っている。前方が開けた瞬間にアクセルを踏み込むと、頭のすぐ後ろにある巨大なV8が金属的な咆哮を上げる。
そして、猛烈なトルクが車体を前方へ押し出す。
気がつけば120mph(約193km/h)。
S7 Twin Turboは、加速するというより、前方へ射出されるような感覚を味わわせる。
NASCARの血を引く7.0L V8
エンジンだけを見ると、現代の高性能エンジンとしては驚くほどシンプルだ。
ドライサンプ式のオールアルミ製7.0L V8で、SOHCやDOHCではなく、1本のカムシャフトと1気筒あたり2バルブのOHV方式を採用する。
しかし、その設計を侮ることはできない。
フォード系の基本設計には、NASCARのレーシングチームによって長年にわたり投入されてきた膨大な研究開発のノウハウが反映されている。
ストリート仕様のTwin Turbo用エンジンは約440lb(約200kg)と軽量で、コンパクト。そして、とにかく音が大きい。
サリーンによれば、S7は当初からツインターボ化を想定して設計されていたという。
ただし2003年の登場時には、自然吸気エンジンの550hpで十分な性能を確保できると判断された。
実際、自然吸気S7は0-60mphを3.6秒、0-100mphを7.7秒、1/4マイルを11.4秒で走り切っていた。
それでもブガッティ・ヴェイロンの登場によって、スーパーカーの性能基準は一気に引き上げられた。
そこでサリーンが送り出したのがS7 Twin Turboだった。
メーカー公称値ではヴェイロン超え
S7 Twin Turboの価格は58万ドル。
当時のプレス資料では、最高速は250mph(約402km/h)を超えるとされ、0-60mph加速2.8秒、0-100mph加速6.0秒、1/4マイル10.7秒・136mph(約219km/h)という数値が掲げられていた。
一方、ブガッティ・ヴェイロンは1,001hp、最高速253mph(約407km/h)、価格125万ドル。
公称スペックだけを並べれば、S7 Twin Turboはヴェイロンよりはるかに安い価格で、ほぼ同等、あるいは一部ではそれ以上の数字を狙っていたことになる。
しかし、本当にヴェイロンを打ち負かせるのか。
そこには大きな疑問が残った。
実測10.7秒。ただし条件は特殊
今回のテストでは、S7 Twin Turboは0-60mphを3.4秒、0-100mphを6.0秒、1/4マイルを10.7秒・143.8mph(約231km/h)で走った。
驚異的な数字だ。
ただし、MotorTrendはこの結果をそのまま他のスーパーカーと同列には扱っていない。
というのも、テスト車両は通常の公道試乗車とは別の個体で、2001年登録のテスト用車両をTwin Turbo仕様へアップデートしたものだった。
さらに、この車両はサリーンのテストドライバーに合わせてセッティングされていた。
S7には通常のシート調整機構がなく、ドライバーに合わせるにはペダルそのものを取り外して位置を変更する必要がある。
MotorTrendのドライバーは十分にフィットできなかったため、加速テストはサリーン側のテストドライバーが担当。しかも満足できる結果を得るまでに少なくとも14回の走行を行っている。
MotorTrendが通常行うテストでは、およそ5回程度の走行が基準だ。
そのため、これらの加速データはあくまで暫定値とされた。
ヴェイロンについても同一条件で独立したテストが行われていなかったため、「S7 Twin Turboが本当にヴェイロンを超えた」と断言することはできない。
それでも、このクルマの本質は速さだけではない
S7 Twin Turboをヴェイロンと比較すること自体は興味深い。
しかし、実際に乗ってみると、両車の性格はまったく違うことが分かる。
ヴェイロンが圧倒的な性能を持ちながら、驚くほど洗練されているのに対し、S7 Twin Turboはまるでレーシングカーをそのまま公道に持ち出したような存在だ。
サリーン自身もS7を「公道を走れるレーシングカー」と表現している。
実際、その基本構造はS7Rのレーシングカーに近く、そこへ排出ガス規制に対応したエンジンと、フル装備のインテリアを与えたものだ。
土曜の朝にコーヒーを買いに出かけるだけでも、ル・マンのホットラップを走っているかのような緊張感がある。
乗り込むだけで一苦労
まず、乗り込むところから普通のスーパーカーとは違う。
幅の広いサイドシルをまたぎ、低くタイトなシートへ体を滑り込ませる必要がある。
さらに運転席は、助手席より約8インチ(約20cm)も車体中央寄りに配置されている。
これは狭いフットウェルに対してドライバーの脚を適切に配置するためだ。
そのフットウェルは本当に狭い。
ペダル同士の間隔も近いため、大きな靴では操作に苦労する。レーシングシューズのような細身の靴が欲しくなるほどだ。
購入時には、近隣のホテルに宿泊し、工場でシートとペダル位置をドライバーに合わせてもらう工程まで用意されていた。
ただし、ステアリングホイールの位置は固定されている。
つまり、ドライバー側がS7に合わせなければならない。
インテリアは上質だが、主役はエンジン
低生産台数のスーパーカーとして見れば、インテリアの仕上がりは悪くない。
ヴェイロンのような静かな豪華さもなければ、パガーニ・ゾンダのようにアルミニウムやカーボンファイバー、鮮やかなキルティングレザーを組み合わせた劇場的な演出もない。
それでも、S7のインテリアには十分な存在感がある。
センターコンソールにはCDオーディオ、専用エアコンの操作系、そしてリバースに入れるとスライドして現れるリアビュー用のモニターが備わる。
ただし、エンジンを始動した瞬間、その静けさは完全に消え去る。
アイドリングしているだけでも、ガレージの中で第二次世界大戦時代の戦闘機を始動させたような音が響き渡る。
シフト操作には明確な力が必要で、発進時にはアクセルとクラッチを繊細に操作しなければエンストしてしまう。
6速MTもレーシングカーそのもの
6速MTにはコンパクトなRandolph Austin製トランスミッションを採用。
そのギアが発する唸り音は、古い貨物用エレベーターのようだ。
これはレーシングカー由来のギア設計によるもので、小さなギアで巨大なトルクを受け止めるため、特殊な歯形が採用されている。
パワーステアリングも独特だ。
操作すると蒸気機関車のように「プシュッ、ヒューッ」と音を立てる。
さらにフルフローティング式のブレーキは、路面の段差を通過するたびにガタガタと音を立てる。
S7 Twin Turboでは、エンジンを始動するだけでひとつのイベントになる。
低速域では扱いづらさも
レーシングカーのような音や操作感は、S7 Twin Turboの魅力でもある。
しかし、公道では弱点にもなる。
約2,000rpm付近でアクセルを軽く開けて走っていると、駆動系がレーシングカーのように激しく前後へ揺さぶられる。
サーキットやワインディングを攻めているときなら、それもキャラクターの一部として楽しめる。
しかし、街中を普通に走る場合は、アクセルを大きく踏み込まない時間のほうが圧倒的に長い。
サリーンのエンジニアリング責任者ビル・タリーによれば、その原因のひとつはTier 2 Bin 8排出ガス規制に対応するための燃料マッピングだった。
そこへ、非常にタイトな駆動系が組み合わさることで、低負荷時のギクシャクした挙動が強調されている。
当時のほかのエクストリーム系スーパーカーが、より洗練されたパワートレインを実現していたことを考えると、ここは明確な弱点だった。
速く走れば走るほど、S7は本領を発揮する
しかし、アクセルを踏み込み、S7 Twin Turboに本気を出させると印象は一変する。
速く、激しく走れば走るほど、クルマ全体がひとつの機械としてまとまり始める。
ステアリングはクイックでダイレクト。
公道上では、巨体ともいえるS7がコーナーへ積極的にノーズを向けていく。
ボディはスコットランドのグラスゴー大学にある風洞で綿密に形状が設計されている。
フロントフェンダーやエンジンカバー周辺の低圧領域を利用し、40mph(約64km/h)程度の低速域からダウンフォースを発生させるという。
2005年モデルから採用された新しいリアフェイシアも、リアのダウンフォースと車体全体のバランスを改善している。
初期型S7は、ハードなコーナリングでリアが不安定になることがあったが、その点も改良された。
ABSもトラクションコントロールもない
乗り心地は意外なほど悪くない。
超扁平タイヤを装着したスーパーカーとしては、むしろ驚くほど快適だ。
その理由のひとつが、2段階式のコイルスプリング。
サリーンのエンジニア、ビル・タリーがかつて関わっていたファクトリーモトクロスバイクから着想を得たシステムだ。
ブレーキも強力だ。
フロントには15インチ、リアには14インチの巨大なブレーキローターを装備する。
ただしABSはない。
トラクションコントロールもない。
つまり、S7 Twin Turboを止めるのも、加速させるのも、すべてドライバー自身の仕事だ。
電子制御に助けてもらうのではなく、自分の手と足、そしてシート越しに伝わってくるクルマの動きを頼りに走る。
テストデータが示す驚異的な性能
MotorTrendのテストでは、S7 Twin Turboは以下の数値を記録した。
- 0-30mph:1.5秒
- 0-40mph:2.1秒
- 0-50mph:2.6秒
- 0-60mph:3.4秒
- 0-70mph:4.0秒
- 0-80mph:4.5秒
- 0-90mph:5.1秒
- 0-100mph:6.0秒
- 45-65mph追い越し加速:1.3秒
- 1/4マイル:10.7秒/143.8mph
- 60-0mph制動:111フィート
- 600フィート・スラローム:69.6mph
- 最大横G:0.99G
- MotorTrendフィギュアエイト:23.4秒/0.90G
特に1/4マイル10.7秒という数字は、現在でも十分に驚異的だ。
ただし、前述の通り加速テストはサリーン側のドライバーが行ったものであり、MotorTrendはこれらの数値を暫定的なものとして扱っている。
「洗練」ではなく「野蛮さ」を選んだスーパーカー
現代のスーパーカーは、どれほど速くても、日常的に運転できるように仕上げられている。
ヴェイロンなら、駐車場をゆっくり走り、一般道を流し、そのまま高速道路で180mph(約290km/h)まで速度を上げることさえできる。
S7 Twin Turboは違う。
これは昔ながらのストリートレーサーだ。
荒々しく、騒々しく、ドライバーに妥協を求める。
だが、その代わりに、現代のスーパーカーでは失われつつある「自分自身でクルマを操っている」という感覚を与えてくれる。
S7 Twin Turboは、速さを電子制御で簡単に引き出すクルマではない。
750馬力を自分の右足で管理し、クラッチを自分でつなぎ、ABSなしのブレーキを自分の感覚だけで踏み、トラクションコントロールなしでリアタイヤのグリップを感じ取る。
だからこそ、このクルマは扱いやすくない。
しかし、それこそがS7 Twin Turboの存在理由なのだ。
数字では語り切れないアメリカン・スーパーカー
S7 Twin Turboは、フェラーリやヴェイロンのような洗練されたスーパーカーではない。
むしろ、その対極に位置する。
ミッドシップに搭載された7.0L V8は大きく、音が大きく、低速域では扱いにくい。
6速MTは重く、ステアリングは固定され、ABSもトラクションコントロールも存在しない。
快適性を追求するなら、もっと優れたスーパーカーはいくらでもある。
だが、S7 Twin Turboは最初からそこを目指していない。
これは公道を走れるレーシングカーだ。
約1,247kgの車体に750hpを詰め込み、0-60mphを3.4秒、1/4マイルを10.7秒で駆け抜ける。
しかも、そのすべてをドライバー自身に委ねる。
ブガッティ・ヴェイロンを本当に打ち負かせるかどうかは、このテストだけでは断言できない。
それでも、S7 Twin Turboがアメリカ生まれのスーパーカーとして、これまでにないほど大胆な挑戦だったことは間違いない。
ヴェイロンが「究極の技術」を象徴する存在だったとすれば、Saleen S7 Twin Turboは「究極の執念」を形にしたクルマだった。
そして何より、このクルマは速い。
とてつもなく速い。
それでいて、ドライバーに楽をさせてはくれない。
だからこそ、S7 Twin Turboは今なお特別な存在なのである。
2007年型Saleen S7 Twin Turbo スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| エンジン | 7.0L V8ツインターボ |
| 排気量 | 6,991cc |
| エンジン形式 | 90度V8、アルミ製ブロック/ヘッド、OHV |
| 最高出力 | 750hp / 6,300rpm |
| 最大トルク | 700lb-ft / 4,800rpm |
| レッドライン | 6,500rpm |
| トランスミッション | 6速MT |
| 駆動方式 | ミッドシップ・後輪駆動 |
| 車重 | 約2,750lb(約1,247kg) |
| 前後重量配分 | 40:60 |
| ホイールベース | 106.3インチ |
| 全長×全幅×全高 | 188.0×78.4×41.0インチ |
| フロントタイヤ | 275/30ZR19 |
| リアタイヤ | 335/30ZR20 |
| フロントブレーキ | 15.0インチ・ベンチレーテッドディスク |
| リアブレーキ | 14.0インチ・ベンチレーテッドディスク |
| 0-60mph | 3.4秒 |
| 0-100mph | 6.0秒 |
| 1/4マイル | 10.7秒 / 143.8mph |
| 60-0mph | 111フィート |
| 横G | 0.99G |
| フィギュアエイト | 23.4秒 / 0.90G |
| ベース価格 | 585,000ドル |
| テスト車価格 | 592,700ドル |
| ABS | なし |
| トラクションコントロール | なし |
| エアバッグ | なし |
| EPA燃費(推定) | 9 / 15 mpg |