BMWが2007年に投入した「335iカブリオレ」は、3シリーズのオープンモデルとしては少し変わったアプローチを採用していた。一般的なソフトトップではなく、金属製のリトラクタブルハードトップを備えていたのである。
しかもBMWは、ただ屋根を金属製にしただけではない。クーペらしいスタイリングを崩さず、オープン時の快適性を確保しながら、トランク容量や走りへの影響まで抑え込もうとしていた。
そして、そのボディに組み合わされたのが、当時BMWを代表する3.0リッター直列6気筒ツインターボ。300hpと300lb-ftというスペックだけでなく、ほとんどターボラグを感じさせないレスポンスも、この335iカブリオレの大きな魅力だった。
クーペのようなスタイルを守ったリトラクタブルハードトップ
BMWが335iカブリオレに採用したのは、3分割構造のリトラクタブルハードトップだ。
競合車の中には、ルーフを折り畳んだ際に大きな塊がトランクスペースを占領するモデルもあった。しかしBMWは、ドイツのソフトトップメーカーであるEdscha AGと共同で、可能な限りコンパクトに収納できるルーフ機構を開発した。
その結果、ルーフを閉じた状態ではクーペに近いシルエットを維持。しかもルーフを格納しても、12.3立方フィートあるトランク容量のうち7.4立方フィートを確保している。
一方で、完全に弱点がないわけではない。ルーフを閉じたとき、フロントセクションを後方へ移動させるための2本のガイドロッドがルーフ上に残る。BMWはこれをルーフ両側のプロテクションモールのように処理しているものの、ライバル車ほどすっきりしたデザインにはなっていない。
それでも、金属製ルーフを持つカブリオレとしては非常に巧妙なパッケージングだった。
後席は広くなったが、足元には厳しさも
興味深いのは、複雑なルーフ機構を採用しながら、後席の居住性をむしろ改善していることだ。
ルーフ機構をコンパクトにまとめたことで、後席のショルダールームは3.2インチ、エルボールームは4.8インチ拡大。さらにサイドウインドウも30%大型化され、オープン時だけでなくクローズド状態でも開放感のある視界を実現している。
ただし、足元のスペースは十分とは言えない。身長5フィート6インチ(約168cm)を超える乗員にとっては窮屈に感じる可能性が高く、実際には後席を人間よりも荷物置き場として使う場面が多くなりそうだ。
そのためBMWは、後席のシートバックを倒してフラットな荷物スペースとして使えるようにした。さらに専用バッグも用意されている。
後席中央部分を外せば、トランクと室内をつなぐスルーロード機構も利用できる。ただし開口部はゴルフバッグやスキー程度を想定したサイズで、大きな荷物を自由に積み込めるわけではない。
ルーフの開閉は約20秒
リトラクタブルハードトップの開閉に必要な時間は20秒強。
しかも、オプションのComfort Accessを装着していれば、車外からキーリモコンを操作してルーフを開閉できる。
ただし、走行中のルーフ操作はできない。これは、ルーフを収納する際にトランクリッドが後方へ大きく動き、ナンバープレートを隠してしまうためだ。
また、オープン走行を快適にする装備も充実していた。
オプションのウインドディフレクターは運転席側から一人で取り付け可能。さらにレザーシートには赤外線を反射する特殊顔料を使用しており、ブラックなど濃色のシート表面温度を最大で約30度下げる効果があるという。
ルーフを開けると、エアコンも自動的にオープン走行用の制御へ切り替わる。外気温や日射センサーをより重視しながら、車内に効率よく風を送り込む仕組みだ。
安全装備としては、ポップアップ式ロールバーや、頭部保護機能を備えたフロントシート用サイドエアバッグも用意されている。
ハードトップなのに、重量増は意外に小さい
金属製ルーフと、それを動かす多数のモーターや油圧機構を搭載する以上、車重の増加は避けられない。
実際、ルーフシステムだけで約308ポンド(約140kg)にもなる。
それでも完成した335iカブリオレは、クーペより約440ポンド(約200kg)重いだけに抑えられている。
その背景には、フロントフェンダーを樹脂製にするなどの軽量化と、鋼板の種類を適切に使い分けたボディ補強がある。
さらにねじり剛性は従来より50%向上。
実際の試乗でも、ボディは驚くほどしっかりしていた。滑らかなアリゾナの道路を走る限り、ダッシュボードが揺れるような感覚はなく、路面からの入力による高周波の振動がわずかに伝わる程度だったという。
ウインドディフレクター、シートヒーター、エアコンを組み合わせれば、気温40°F(約4℃)程度の環境でも快適なオープン走行を楽しめる。
走りは「カブリオレだから」という妥協を感じさせない
335iカブリオレの最大の魅力は、オープンカーでありながらドライビング性能をほとんど犠牲にしていないことだ。
ルーフを収納した状態でも、ステアリングはBMWらしくダイレクト。ドライバーがクルマの動きを直感的に理解でき、タイヤのグリップ限界へ向けて自然に攻めていける。
つまり、クーペに2人の乗員を追加した程度の感覚で運転できる。
これは当時のカブリオレとしては非常に重要なポイントだった。
オープンモデルではボディ剛性や重量増加によって、どうしてもハンドリングが鈍くなりがち。しかし335iカブリオレでは、そうした弱点がかなり抑えられている。
300hpの直列6気筒ツインターボが本領を発揮
そして、このクルマを語るうえで欠かせないのが3.0リッター直列6気筒ツインターボエンジンだ。
最高出力は300hp、最大トルクは300lb-ft。
当時としてはかなり強力なスペックだったが、数字以上に印象的なのがレスポンスの良さだった。
試乗ではターボラグをほとんど感じることがなく、ターボチャージャーの作動音やホイッスル音もほぼ気にならなかったという。
その理由のひとつは、小型のターボチャージャーをエンジン下部に配置していること。2基のターボは低回転域のトルクを補う役割に徹し、約12psiの最大過給圧にほぼ瞬時に到達する。
そして3000rpm付近からはバイパスバルブが開き、まるで自然吸気エンジンのようなフィーリングへ移行していく。
10.2:1という圧縮比も含め、ツインターボエンジンでありながら非常に自然なパワーデリバリーを実現していた。
6速ATがMTに迫る完成度
そしてもうひとつ興味深いのが、トランスミッションだ。
335iには6速MTに加えてZF製6速ATが用意されたが、MotorTrendの試乗では、このATが「MTにかなり近い魅力を持っている」と評価されている。
特に優れているのは、トルクコンバーターをほぼ常時ロックできること。
スポーツ走行では発進直後からロックアップし、シフトチェンジに要する時間は約100ミリ秒。これは当時のフェラーリF1のシフト速度に匹敵するほど速い。
ステアリングホイールのパドルでシフトダウンすれば、エンジン回転数を自動的に合わせてくれる。アクセルを大きく踏み込んだ場合も、途中のギアを飛ばして最適なギアを瞬時に選択する。
当時のSMGと比べれば、その完成度はかなり高かった。
もちろん完璧ではない。停止直前にトルクコンバーターがロックを解除すると、少しショックを感じることがある。また、低速域では発進がややギクシャクする場面もあった。
さらにスポーツモードの自動変速ロジックについては、状況に応じた最適なギア選択という点で、当時のAMG製ユニットに一歩譲ると評価されている。
それでも、日常域での扱いやすさとスポーツ走行時の素早い変速を両立した6速ATは、335iカブリオレの完成度を大きく高めていた。
2007 BMW 335iカブリオレの細かな技術
335iには、当時としては興味深い技術が数多く投入されていた。
- ターボチャージャーは三菱製だが、ハウジングの空力設計からニッケル合金製タービンホイールまでBMWが設計。
- 直噴とターボによってValvetronicと同様のメリットを得られるため、335iにはValvetronicを採用していない。
- オルタネーターは加速時には発電を抑え、減速・ブレーキング時に最大出力で発電することで、ハイブリッド車の回生ブレーキに似た効率改善を実現。
- 電動ウォーターポンプは必要なときだけ作動し、エンジンやヒーターの暖機を早めながら、冷却効率と燃費を改善。
- ブレーキはフェード発生時にライン圧を高める制御を備え、坂道では最大30秒間クルマを保持できる。
- ブレーキパッドには電動摩耗センサーを内蔵。
- ラジオとGPSアンテナはリアウインドウとリアサイドパネルに統合。
- iDriveには6個のショートカットボタンがあり、ラジオのプリセットやナビの目的地、電話番号などを登録可能。
- iDriveディスプレイには特殊な防眩コーティングが施され、偏光サングラスを着用していてもさまざまな角度から画面を確認できる。
こうした細かな技術の積み重ねが、335iカブリオレの完成度を支えていた。
2007 BMW 335iカブリオレ|主要スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| ベース価格 | 41,500~47,500ドル(推定) |
| 駆動方式 | FR |
| ボディ | 2ドア・4シーター・コンバーチブル |
| エンジン | 3.0L直列6気筒 / 230hp / 200lb-ft |
| エンジン(335i) | 3.0L直列6気筒ツインターボ / 300hp / 300lb-ft |
| トランスミッション | 6速MT / 6速AT |
| 車両重量 | 3,800~4,000lb(メーカー値) |
| ホイールベース | 108.7インチ |
| 全長×全幅×全高 | 180.6×70.2×54.5インチ |
| 0-60mph | 5.5~7.2秒(メーカー推定) |
| 燃費 | 19~20 / 28~30mpg(推定) |
| 発売時期 | 2007年4月 |
まとめ――重いルーフを背負っても、BMWらしさは失わない
2007年型BMW 335iカブリオレは、単純に「屋根を開けられる3シリーズ」ではなかった。
金属製のリトラクタブルハードトップを採用しながら、クーペに近いスタイリングと十分なトランクスペースを確保。ボディ剛性も大幅に高められ、オープンカー特有のボディの緩さも最小限に抑えられている。
そして何より、300hpを発揮する直列6気筒ツインターボと優秀なZF製6速ATが組み合わされることで、日常的な快適性とスポーツカーのような走りを両立していた。
もちろん、後席の足元は狭く、ルーフ収納時の荷物の積み込みにも扱いにくさがある。それでも、オープンカーとしての快適性と3シリーズらしい運動性能をここまで高いレベルで融合した点は評価できる。
当時のMotorTrendが指摘したように、この335iカブリオレは年月を経ても魅力が色あせにくい一台だった。
そして、その理由は単に300hpのツインターボエンジンだけではない。
クーペの走りをほぼ維持したまま、複雑な金属製ルーフを巧みに収めたパッケージングこそが、2007年型BMW 335iカブリオレ最大の“隠し技”だったのである。