ユニークなスタイル、広大な室内空間、そして予想以上に楽しい走り。
Kiaが送り出した電動バン「PV5 Passenger」は、実用車というカテゴリーにもう一度ワクワク感を取り戻そうとしている。
一見すると、単なる箱型のEVにしか見えないかもしれない。しかし実際に乗ってみると、このクルマには1960年代の「フォルクスワーゲン・タイプ2・マイクロバス」に通じる自由な雰囲気がある。
Kia自身がそう主張しているわけではないものの、PV5はまさに現代版マイクロバスとも呼べる存在だ。
では、フォルクスワーゲンの「ID.Buzz」はどうなのか。
ID.Buzzはタイプ2を現代的に再解釈したEVとして魅力的な存在だが、PV5と比べると少し作り込みすぎているようにも感じられる。そして何より高価だ。
MotorTrendの試算では、装備を充実させたPV5 Passengerの価格は約4万ドルになる見込み。これは米国で販売されるID.Buzzのエントリーグレードのおよそ3分の2に相当する。
安価で、実用的で、そしてちょっと変わっている。
PV5の魅力は、そこにある。
商用車のために生まれた新世代EVプラットフォーム
PV5は、Hyundai Motor Groupが開発した新しい「E-GMPS」電動車プラットフォームを採用する最初のモデルだ。
E-GMPSは、ヒョンデ・アイオニック5やKia EV9、Genesis GV60などで使われているE-GMPをベースに、商用車向けに改良したアーキテクチャーである。
最大の特徴は、前輪駆動レイアウトだ。
ドライバーの着座位置をより前方へ移し、ダッシュボードから前車軸までの距離を極端に短くしている。コンパクトな電気モーターとパワーエレクトロニクスは、フロントファイアウォールの後方に配置される。
さらにバッテリーパックはE-GMPより低い位置に搭載され、セルをモジュール化せず、バッテリーパックへ直接組み込む方式を採用している。
その結果、車内には非常に低く、完全にフラットなフロアを実現した。
このフロアは運転席の膝下付近から車両後部まで続いており、乗用バン、カーゴバン、キャブシャシーなど、さまざまなボディタイプに対応できる。
つまりPV5は、最初から「人を運ぶだけのミニバン」として設計されたクルマではない。
人や荷物を運ぶビジネスを支える、モジュール型の商用EVプラットフォームなのである。
Kiaが狙うのは巨大な商用車市場
華やかなスポーツカーとは対極にある存在だが、KiaにとってPV5のようなモデルは非常に重要だ。
Hyundai Motor Groupは、市場調査会社Mordor Intelligenceのデータとして、複数人を運ぶライドハイリング市場が2029年までに2,941億ドル規模へ成長すると見ている。
また、Fortune Business Insightsの調査では、短距離配送市場が2032年までに1,349億ドル規模になると予測されている。
つまり、アイオニック5 Nのような速くて楽しいクルマだけが将来のEV市場を支えるわけではない。
むしろ、大量の人や荷物を効率よく運ぶバンこそ、大きなビジネスになる可能性がある。
Kiaは2030年までに、PV5を年間15万台販売することを目標としている。
ID.Buzzより小さい、ちょうどいいサイズ
PV5 Passengerの全長は184.4インチ、ホイールベースは117.9インチ。
米国で販売されるロングホイールベースの3列シート仕様ID.Buzzと比べると、全長・ホイールベースともに約10インチ短い。
一方、2022年にMotorTrendが試乗したショートホイールベースのID.Buzzとは、ほぼ同じサイズだ。
そしてPV5 Passengerも、2列5人乗りのレイアウトを採用している。
つまり、巨大なミニバンではない。
街中でも扱いやすいサイズを維持しながら、EVならではのパッケージングによって広い室内空間を確保している。
箱型ボディに遊び心を加えたデザイン
箱型のバンを魅力的に見せるのは簡単ではない。
しかし、Kiaのグローバルデザイン責任者であるKarim Habib率いるデザインチームは、PV5にかなり個性的な表情を与えた。
フロントでは、Aピラーの下側から伸びるデイタイムランニングライトが、波打つように下へ流れている。
その下には短いノーズと、奥まった位置に配置されたヘッドライト。
フロントグリルは実際に空気を取り込む必要のないフェイクグリルだが、シルバーの頑丈そうなモールによって工業製品らしい雰囲気を演出している。
ホイールアーチとボディ下部にはブラックのクラッディングを配置。
巨大なリアゲートも、下端付近でわずかに内側へ折れ込むような造形となっている。
単なる「四角い箱」ではない。
PV5には、商用車らしい機能性を残しながら、乗用車としての個性を加えるための工夫が随所に見られる。
ガラスの上に屋根が浮いているように見える
サイドビューで特に面白いのが、ウインドウ周辺の処理だ。
フロントドアのウインドウ上端と下端を囲うようにブラックの処理を施し、ボディサイドの視覚的な厚みを抑えている。
さらにフロントドアとリアスライドドアが接する部分では、このブラックのラインが上へ跳ね上がる。
これによって、単調になりがちな巨大なサイドパネルにアクセントを加えている。
Bピラーより後方のウインドウにスモークを入れる仕様なら、さらに面白い。
実際の開口部はボディ剛性を確保するために見た目ほど大きくないのだが、ブラックアウトによってその境界が目立たなくなる。
その結果、巨大なガラスの壁の上にルーフだけが浮かんでいるように見える。
このデザインは、PV5の最大の魅力の一つだ。
航続距離は十分、しかし速さは期待しないほうがいい
PV5は400Vの電気システムを採用している。
なお、800V仕様も今後登場する予定だ。
バッテリーとパワートレインには2種類の組み合わせが用意される。
ベースモデルには51.5kWhのバッテリーと、前輪を駆動する120hpの電気モーターを搭載。
今回試乗した上級仕様では、71.2kWhのバッテリーを搭載する。
WLTP航続距離は、ベースモデルの183マイルから256マイルへ伸びる。
EPA基準では、この数字よりおよそ20%程度低くなると予想される。
上級仕様のフロントモーターは、ベースモデルと同じ185lb-ftの最大トルクを発生する。
ただし最高出力は161hpへ引き上げられており、0-60mph加速は約12秒から10秒未満へ短縮される。
最高速度は84mphに制限される。
つまり、アクセルを床まで踏み込んでも、スポーツカーのような加速は期待できない。
PV5は速さを追求したEVではない。
それでも、実際に道路を走らせると、スペック表から想像するほど鈍重なクルマではなかった。
数字以上に軽快に感じる理由
PV5が意外に軽快なのは、その車重に理由がある。
車両重量は約4,600ポンド。
これはショートホイールベースのID.Buzzより約850ポンド軽い。
さらに米国で販売されるロングホイールベース、3列シート仕様のID.Buzzと比較すると、実に1,400ポンドも軽い。
そのため、信号からの発進でも、コーナーでも、161hpという数字から想像する以上にキビキビと動く。
もちろん速いわけではない。
しかし「電動バンだから鈍い」という印象はすぐに消えていく。
商用車らしさは走りにも表れる
一方で、PV5の商用車としてのルーツを完全に隠すことはできない。
荒れた路面では、フォルクスワーゲンよりサスペンション周辺から伝わってくるノイズが大きい。
さらに前輪駆動というレイアウトのため、バンピーなコーナーの頂点でアクセルを踏み込むと、ステアリングにキックバックが伝わってくる。
ワインディングロードでのボディコントロールも、ID.Buzzほど引き締まってはいない。
ただし、だからといって運転が楽しくないわけではない。
ステアリングは軽く、正確。
ブレーキペダルのフィーリングも一貫しており、安心感がある。
そして乗り心地は驚くほど柔らかい。
16インチのアルミホイールに215/65サイズのタイヤを組み合わせ、分厚いサイドウォールが路面の細かな凹凸をしっかり吸収してくれる。
「車輪の付いた箱」ではある。
しかし、運転すること自体が苦痛になるようなクルマではない。
5段階の回生ブレーキ
PV5には、ヒョンデやKiaのE-GMP系EVと同じように、5段階の回生ブレーキ設定が用意される。
ステアリングホイール裏側のパドルを操作することで、減速感を変更できる。
最も強い設定では、ほぼワンペダルドライブに近い減速が可能。
反対に回生を弱めれば、アクセルを戻してもほとんど減速しないコースティング状態にできる。
交通状況や道路環境に応じて、ドライバーが好みの設定を選べるわけだ。
走行モードはEco、Normal、Snowの3種類。
ステアリングホイールの付け根部分に専用ボタンが用意されている。
見た目以上に広い室内
PV5の最大の強みは、やはり室内空間だ。
インテリアには大量のダークカラーの樹脂素材が使われており、質感という点ではID.Buzzに及ばない。
しかし、E-GMPSの前輪駆動レイアウトと低い位置に搭載されたバッテリーによって、室内は驚くほど広い。
リアモーターを搭載する後輪駆動のID.Buzzでは、モーターのスペースを確保するため、後席のフロアがPV5より約8インチ高い。
この違いは室内に入ればすぐに分かる。
Kiaによれば、2列目シートを通常の状態にした場合、ラゲッジスペースは47立方フィート。
60:40分割の2列目を倒せば、128立方フィートまで拡大する。
乗員を運ぶだけでなく、大量の荷物を積む用途にも十分対応できる。
後席の使い勝手も考えられている
2列目の乗員にはフットレストが用意される。
さらに、USBポートは運転席シートバックの両側に配置されている。
上級グレードでは、2列目の左右シートにヒーターも装備される。
つまり、単に「荷物がたくさん載る」だけではない。
人を乗せるための乗用車としても、きちんと使えるように設計されている。
Kiaらしい操作系とAndroid Automotive OS
運転席からの眺めは、KiaのEVに乗ったことがある人なら見慣れたものだろう。
7.0インチのメーターディスプレイに加えて、中央には12.9インチのタッチスクリーンを搭載する。
ナビゲーションなどのインフォテインメント機能にはAndroid Automotive OSを採用。
Kiaとしては、このソフトウェアを車両に採用するのはPV5が初めてとなる。
ただし、PV5は「すべてをタッチスクリーンで操作する」という方向には進まなかった。
ドアミラーの調整など、頻繁に操作する機能には物理ボタンを残している。
パワースライドドアのオン/オフにも専用ボタンが用意される。
さらに嬉しいのが、レーンキープアシストを物理ボタン一つでオフにできること。
こうしたシンプルな操作性は、実際に日常的に使うユーザーにとって大きなメリットになる。
ペットモードまで用意
PV5には、Kiaが「Pet Mode」と呼ぶ機能も搭載される。
中央のインフォテインメント画面から起動すると、車両をロックした状態で、電子パーキングブレーキなどの重要な操作を無効化できる。
さらにエアコンを作動させ、車内をあらかじめ設定した温度に保つことも可能。
インフォテインメント画面には、車内にいるペットが快適に過ごしていることを周囲へ知らせるメッセージも表示される。
犬や猫を車内で待たせる機会のあるユーザーにとって、かなり実用的な機能だろう。
PVシリーズはこれからさらに拡大
PV5 Passengerは、一般的なミニバンとは少し違う。
まず、見た目が普通ではない。
そして商用車をベースにしているため、荒れた路面でサスペンションノイズが多少気になることや、インテリアに工業製品的な硬質プラスチックが多いという弱点もある。
しかし、走りは十分に楽しめる。
装備も充実しており、荷物も大量に積める。
そして価格も魅力的だ。
何より、PV5には「使う人が用途を決められる」という自由さがある。
Kiaは今後、PV5の3列7人乗り仕様を投入する予定だ。
さらに、工場出荷時から車椅子で乗り込めるサイドエントリー仕様も用意される。
そして2027年には、より大型のPV7が登場する予定。
PV7の乗用モデルは、ロングホイールベースのID.Buzzに匹敵する室内空間を実現すると見込まれている。
さらに大型のPV9は2029年に登場する予定だ。
E-GMPSプラットフォームの柔軟性を示すモデルとして、2024年のCESでPV5やPV7とともに公開された小型の都市型バン「PV1」の市販モデルも計画されている。
2026年型Kia PV5 Passenger 主要スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 価格 | 41,000ドル(MotorTrend推定) |
| ボディ | 5人乗り・4ドア・電動バン |
| 駆動方式 | 前輪駆動 |
| モーター | 永久磁石式電気モーター |
| 最高出力 | 161hp |
| 最大トルク | 184lb-ft |
| トランスミッション | 1速ダイレクトドライブ |
| 車両重量 | 4,600lb(メーカー値) |
| ホイールベース | 117.9インチ |
| 全長×全幅×全高 | 184.8×74.6×76.8インチ |
| 0-60mph | 9.9秒(MotorTrend推定) |
| EPA燃費 | 未評価 |
| EPA航続距離 | 未評価 |
| WLTP航続距離 | 最大256マイル |
| 販売状況 | 欧州で販売中 |
※バッテリー容量や航続距離は仕様によって異なる。上級仕様は71.2kWhバッテリーを搭載し、WLTP航続距離は256マイル。
まとめ――PV5は「新しいマイクロバス」になれるか
Kia PV5 Passengerは、単なる電動ミニバンではない。
商用車として大量の人や荷物を運ぶことを前提に設計されながら、個人ユーザーが自由に使える余白も残している。
そのスタイルは個性的で、ID.Buzzほどレトロデザインを意識しすぎていない。
室内は広大で、低いフロアによって乗降性も優れている。
走りについても、161hpという数字だけを見れば物足りなく感じるかもしれないが、4,600lbという比較的軽い車重のおかげで、実際の道路では意外なほど軽快に動く。
もちろん、ID.Buzzより商用車らしさを感じる部分はある。
荒れた路面ではサスペンションノイズが目立ち、ワインディングではボディコントロールにもう少し洗練が欲しい。
それでも、ステアリングは正確で、ブレーキも扱いやすく、乗り心地も良好だ。
そして何より、PV5には「楽しさ」がある。
1960年代のフォルクスワーゲン・タイプ2がそうだったように、PV5は単なる移動手段ではなく、ユーザー自身がライフスタイルを作り上げるためのキャンバスになり得る。
高価になりすぎた現代のID.Buzzに対して、Kiaはもっとシンプルで、実用的で、そして手の届きやすいEVバンを提示した。
もし現代版「マイクロバス」の精神的後継車を探しているなら、PV5はかなり有力な候補と言える。
少なくとも、これは「ただの箱」ではない。
実用性をクールに見せることに成功した、Kiaらしい新世代の電動バンである。